レセプト開示で信頼の医療を!

 買い物をすれば、明細つきのレシートが渡される。代金を払ったのだから当たり前のことだ。だが、このごく当然のことが通用しないのが、日本の医療機関である。

 医療機関の明細書は、レセプトと呼ばれる。そこには、患者一人一人について、医療費請求の根拠となる薬の名前や量、検査や手術の明細、それに病名が書いてある。この請求書に従って代金を支払うのは健康保険組合や市町村だがそこに保険料や税金を支払ってい為のは、ほかならぬ一般国民である。

 ところが、レセプトを見ようとしても、門前払いされる。その理由説明に必ず持ち出されるのが厚生省の質疑応答集だ。そこには、とんなふうに書かれている。「たとえ本人であってもレセプト自体あるいはその写しを閲覧させることはできない」このような見解には法的な根拠はないのだが、厚生省はなかなか変えようとしなかった。背景には、患者に診療内容や請求内容を知られることを嫌う日本医師会の強い影響力があったといわれている。

 その厚生省が二十五日、百八十度方針を転換Lた。本人や遺族から講求された場合、健廉保険組合や市町村、国民健康保険組合はレセプトのコピーを渡すこと、という通知を出したのである。

 かたくなだった厚生省を変える原動力になったのは「医療情報の公開・開示を求める市民の会]事務局長の勝村久司さんだ。勝村さんは、地学を教え、天文同好会を指導する、ごく普通の高校の先生で、医療にはまるで縁がなかった。

七年前、初めてのわが子が仮死状態で生まれ、亡くなった。妻も生死の境をさまよった。・そのわけをつきとめようと、共済組合にレセプト開示を求めたが、「プライバシーの侵害になる」「がんだと本人にショックを与える」など、奇妙な理由を並べたてられて拒否され続けた。

 その中で間題の根深さに気づき、厚生省と交渉することになった。個人情報保護条例や公文書公開条例をもつ自治体で、レセプトの開示に踏み切るところが現れた。昨年九月には、大阪高裁が兵庫県にレセプト開示を命ずる判決を言い渡した。

 医療保険法改正で自已負担が増えたこともあり、「講求書の明細も知らされず負担だけ増えるのはおかしい」という世論も高まり、厚生省も日本医師会も転換に踏み切ることになった。長年、放置してきた非常識は嘆かわしいが、この新方針は評価したい。

 勝村さんは「医療界をピラミッドにたとえると、レセプト開示は、広い底辺部を透明にしたのと同じ。医療は透明になることでよくなる。一部の良心的な專門家だけの力では不可能です」と記者会見で述べた。その通りだと思う。

 患者も開示制度を活用したい。通知では「本人が傷病名を知ったとしても本人の診療上支障が生じない」ことを主治医などに確認した上で、健保組合などは開示することとされている。「病名を知ってもかまわない」という本人の意思さえはっきりしていれば、レセブトは開示される。非開示は例外的ということである。

 患者の目に触れると思えば、不正請求も減ることだろう。医療関係者はこれまで、技術料への評価の低さをはじめとする医療保険制度のひずみを嘆いてきた。レセプト開示は、こうしたひずみを市民の目の前にさらし、ともに改善していく好機にもなることだろう。開示を信頼の医療の出発にしたい。